テーマは発酵!第8回やんばるの食×文化フェスティバルレポート

沖縄県北部・やんばるエリアの食と文化を「見て」「聞いて」「味わう」体感イベント”やんばるの食×文化フェスティバル”。その第8回が2025年1月18日に宜野座がらまんホールにて開催されました。今回は発酵デザイナー・小倉ヒラクさんをスペシャルゲストに、「やんばるの発酵文化人類学」と題した講演会と、沖縄高専生による発酵研究発表コンテストが見どころ。あわせて紅麹食品でおなじみの名護・マキ屋フーズの金城正直さんによる豆腐よう作りのワークショップをはじめ、北部を中心に沖縄県内から選りすぐったフードマルシェや、地元・宜野座のちびっ子たちによるエイサーやフラ、HIP HOPダンスなどのパフォーマンスも披露されました。大盛況のうちに終わったその模様をダイジェストでお届けします。

「発酵」ひとつで沖縄の歴史や風土、人々の営みが見える

前回からおよそ1年2ヶ月ぶりの開催となった第8回やんばるの食×文化フェスティバル。イベント開始の朝10時半を前に宜野座がらまんホール前には、沖縄じゅうから集まった多くのフードトラックが集結し、早くも美味しそうな香りを放っています。イベントに備えて朝ご飯をしっかり抜いてきた身としては、いち早く飛びつきたいところですが、大ホールでは間もなくスペシャルゲスト・小倉ヒラクさんの講演が始まるため後ろ髪を引かれる思いで後にしました。『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』など数々の著書で知られる、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん。「もともと沖縄は大好き!」とのことですが、新型コロナウイルス騒動もあって訪沖は実に5年ぶり。それもあってか、ややテンション高めに「やんばるの発酵文化人類学」と題した講演を1時間半にわたってお話しいただきました。

その中で語られたのは、発酵の基本メカニズムをはじめ、日本と東アジアの発酵文化の違い、そして沖縄ならではの発酵文化について。とりわけ沖縄本島でも珍しい紅麹による豆腐ようについては、名護・マキ屋フーズの金城正直氏も交えながら、その製造過程や発酵がもたらす価値が深く掘り下げられました。

冒頭では、まず「発酵」についてを解説。発酵とは「微生物が物質を分解し、人間にとって有用な物質を生成するプロセス」であり、単なる食品加工技術にとどまらず、文化的・宗教的な意味を持つものでもあり、小倉さんの興味関心の中心もそこにあるといいます。

続いて、発酵文化の地理的な差異に着目し、東アジアと西洋の発酵技術の違いについて語られます。

東アジアでは「カビを使う発酵」が発達しており、特に日本本土では麹菌が味噌や醤油、日本酒の製造に欠かせない存在となっています。かたや西洋では主に乳酸菌や酵母による発酵が中心であり、チーズやワイン、パンなどがその代表例。この発酵文化の違いは、気候や環境による影響が大きく、日本のような高温多湿の地域ではカビが繁殖しやすいため、それらを活用した発酵技術が発展したと考えられるのだそうです。それらがまた、各地の宗教と強く結びついているのも興味深いところ。

では沖縄の発酵文化はどうなのでしょう? 実は、沖縄の発酵文化は東アジアとミクロネシアの影響を受けている点が特徴的なのだとか。特に、麹菌をもちいた独自の発酵食品の存在がポイントと言います。

ここで、紅麹で甘酒や豆腐よう作りをおこなっているマキ屋フーズの金城正直さんも登壇し、同社の紅麹豆腐ようの製造過程や紅麹の役割について詳しく語られました。発酵の過程でタンパク質が分解されることで、濃厚な旨味と香りが生まれることが説明されると、「沖縄の発酵文化は、素材の力を最大限に活かす方法が発展しており、非常にユニークです」と小倉さん。さらには、マキ屋フーズの紅麹食品を、小倉さんが経営する発酵デパートメント(東京・下北沢)でガンガン売りましょう!と意気投合する一幕も。

もうひとつ、沖縄の発酵文化において忘れてはならない重要な存在が黒麹です。

黒麹は、クエン酸を多く生成する特性を持ち、強い酸性環境を作ることで他の雑菌の繁殖を防ぎます。これにより、沖縄の高温多湿な気候に適した発酵方法として活用されてきました。一般的な麹は密閉された「麹室(こうじむろ)」で育てられますが、黒麹は比較的オープンな環境でも育成が可能であるため、亜熱帯の環境でも発酵が容易に行えます。この特性により、泡盛の製造には黒麹が不可欠とされているのです。近年では、泡盛以外にも黒麹を利用した食品開発が進められており、小倉さんは「黒麹の可能性はまだまだ広がるでしょう」と期待を寄せます。

講演の最後には、発酵文化を人類学的な視点で捉えることの重要性についても語られました。発酵は単なる食品加工技術にとどまらず、地域の環境や歴史、文化的背景と密接に結びついています。例えば、沖縄の発酵文化は日本本土のそれとは異なる発展を遂げており、いずれも気候や食文化、さらには交易の歴史と関連しています。小倉さんは「発酵文化を知ることは、その土地の歴史や人々の暮らしを理解することにつながります」と強調し、地域ごとの発酵文化の違いを学ぶことで、より豊かな食文化を築くヒントになると結びました。

地域に根づく発酵食品を知ることで、自分たちが何者かを知る。
これからは日本酒や泡盛を飲むことを「フィールドワーク」と呼ぶのはどうでしょうか。お父さん、ちょっとフィールドワーク行ってくるね、と。

沖縄、日本にとどまらず世界中のグルメが会したフードマルシェ

大盛況のうちに終わった小倉ヒラクさんの講演会。時刻もほどよくランチタイムです。早速オーディエンスのみなさんも、大ホールからフードマルシェへ大移動が始まるわけですが、すでにそちらも大盛況で、多くの来場者で賑わっています。密かに狙っていたMANTICANのビリヤニもすでに売り切れ!どうしても食べたい屋台メシは講演の前に確保しておくのがベターかもしれません。

気を取り直してもうひとつ狙っていたのが同じくインド料理のドーサを提供するアイタル食堂。特に南インドで食べられるドーサは、米と豆を発酵させた生地を焼いたクレープ状の主食で、カレーを付けたり、同店のように具材をラップするなどして食します。まさに発酵テーマにぴったりの一品! 小倉さんもお昼はドーサにしたようです。

その食感は、ふわふわもちもちサクサクで、日本にありそうでない独特のもの。鼻腔を抜ける香りもまたパンやクレープと違って、独自の香ばしさがあります。なかなかインド料理店でもお目にかかれない一品ですので、ぜひチャンスがあればお試しあれ。

その他にもハンバーガーの名店・キャプテンカンガルーや、いまや全国区の有名店となった金月そばをはじめ、琉球ピザ、月桃ちまき、他にも各種スイーツなどなど、さまざまな屋台が目白押しだったフードマルシェ。会場内では、がらまんキッズフラによるフラダンスや、がらまんキッズダンスによるHIPHOPダンスが披露され、来場者を楽しませてくれました。

沖縄高専生が挑む発酵の未来〜学生発酵アイデアコンテスト

さて、午後からはやんばるの学生たちが挑む学生発酵アイデアコンテストです。実はスペシャルゲストの小倉さんが、今回の訪沖で楽しみにしていたというのが、このコンテスト(の審査員)なのだそう。いわく「ぼく高専生って大好きなんです」とことですが、その理由は総評で判明しますので、まずは学生たちのプレゼンテーションからお届けしましょう。

本コンテストは、未来の発酵食品や発酵技術の可能性について学生有志ら4つのチームによる研究発表がおこなわれ、それぞれのユニークなアイデアが審査員たちによって評価されました。

エントリーNo.1 泡盛×プリンの新たな新感覚スイーツ “アワモリん”
(ちゅらあーむい)
生物資源工学科4年生からなるチーム”ちゅらあーむい“は、沖縄の伝統的なお酒「泡盛」の消費量が減少している問題に着目し、泡盛を使用した新たなスイーツ「アワモリん」を提案しました。特徴は、豆腐を使用したアレルギー対応のプリンであることに加え、泡盛のもろみ粕(沖縄では「ねかし」と呼ばれる)を活用し、発酵食品としての価値を高めている点です。審査員のマキ屋フーズ・金城士郎さんは、「泡盛の消費が減少している中で、新たな視点から泡盛の価値を引き出す取り組みは興味深い。商品化の可能性も十分にある」と評価。また、小倉さんは「お菓子に香りが重要なように、泡盛の香りをより活かす工夫を加えることで、新しい世代にも受け入れられる可能性がある」とコメントしました。

エントリーNo.2 沖縄の伝統食材を活用した新しい発酵食品・もずく油味噌
(モーズク娘。)
食品科学科2年生による“モーズク娘。”は、沖縄県伊平屋島産のもずくを活用した「もずく油味噌」を開発。もずくは栄養価が高く、フコイダンが含まれていることで健康食品としての可能性もありますが、その消費量は伸び悩んでいます。そこで、油味噌という沖縄の伝統的な調味料と組み合わせることで、もずくの消費拡大を目指して、すでにテスト販売もしているとか。

審査員の小倉さんは「健康食品としての可能性を最大限に活かすなら、価格を想定の3〜4倍に設定し、高付加価値商品として販売する戦略が有効」とアドバイスしました。また、フードコーディネーターの服部あや乃さんは「沖縄の伝統的な食材を活かしながら、現代の食卓に合う形でアレンジされている点が素晴らしい。私も買ってみたい」と高く評価しました。また、今後の課題として、賞味期限のさらなる延長、商品ラベルの改良、販売チャネルの拡大が挙げられました。

エントリーNo.3 ミジンコ浮草の発酵システムで環境・食料問題を解決
(ミジンコ)
タイからの留学生も交えたチーム”ミジンコ”は、地球温暖化や食料問題を解決するための「ミジンコ浮草(うきくさ)発酵システム」を提案しました。ミジンコ浮草は成長が早く、タンパク質が豊富であることに加え、水質改善効果も期待できる植物です。彼らは、このミジンコ浮き草を発酵させることで、食料資源やバイオ燃料としての活用を目指しています。

審査員の沖縄高専・佐藤貴哉校長は、「実証実験を行い、データを蓄積することが今後の研究にとって重要」と指摘しました。また、小倉さんは「実際に投資家にアプローチすることで、大規模な研究開発や事業化につなげる可能性がある」と述べ、研究の発展に期待を寄せます。

エントリーNo.4 CO2を活用し新たなぬか漬けの可能性を探る
(超NUKADUKE♡宣伝部)
最後に登場したのは、”超NUKADUKE♡宣伝部”。彼らは、CO2環境下でぬか漬けを発酵させる実験を行い、CO2が発酵過程に与える影響を調査しました。実験の結果、CO2を加えたぬか漬けは通常のぬか漬けよりも食感が良く、香りがまろやかになることが確認されました。

審査員の小倉さんは、「まずやってみたことが素晴らしい。次の段階では、研究の目的を明確にし、発酵食品の保存技術としての可能性や環境負荷軽減の観点から研究を進めるとよい」とコメントしました。この実験は、発酵技術と環境問題を組み合わせた新たな試みであり、今後の展開が注目されます。

こうして1時間半におよぶプレゼンテーションと寸評が終了。この後は、4名の審査員による厳正なる審査がおこなわれグランプリが発表されるのですが、その間、大ホールでは宜野座村惣慶地区で活動する”惣慶ミジタヤー太鼓”によるパフォーマンスが披露されました。いやあ、ちびっこ太鼓にちびっこ獅子舞は可愛いものですね。

いよいよ審査結果の発表です。

審査員たちは、アイデアの独創性、実現可能性、発酵の活用度などを基準に評価し、それぞれのチームの努力と工夫を称えました。そしてグランプリに輝いたのは──

泡盛のもろみ粕を活用した「アワモリん」を提案した”ちゅらあーむい”! 審査では、発酵食品としての価値を高めつつ、新しい形で泡盛の魅力を伝えるアイデアが高く評価されました。

その他、沖縄高専賞には環境問題と発酵技術を組み合わせた「ミジンコ浮き草発酵システム」を提案したミジンコチーム。やんばる食文化賞には、沖縄の伝統食材・もずくを活用した「もずく油味噌」を開発したモーズク娘。が。そして宜野座がらまん賞には、CO2環境下でぬか漬けを発酵させる実験を行った超NUKADUKE♡宣伝部がそれぞれ選出されました。

小倉さんをはじめ審査員から高く評価されたのが、沖縄高専の学生たちの研究姿勢と創造力です。「高専ならではの強みとして、仮説を立てるだけでなく、実際に現場で検証し、試行錯誤を繰り返している点が素晴らしい」と小倉さん。また、「研究の次のステップとして、自分のアイデアを客観的に見つめ直し、社会実装の可能性を追求していくことが重要」とのアドバイスもありました。

発酵技術は、食品分野だけでなく、環境や持続可能な社会づくりにも貢献できる可能性があるとあらためて示された今回のコンテスト。学生たちが発表したアイデアの中には、今後の商品化や実用化が期待されるものも多く、今後の研究の発展が楽しみです。最後に、全参加チームへ向けて、大きな拍手が送られました。

 

 

紅麹講座&マイ豆腐よう作りワークショップも満員御礼

高専生らによる発酵アイデア発表会と、時を同じくして開催されたのが前出・マキ屋フーズの金城正直さんによる「紅麹講座&マイ豆腐よう作り」のワークショップです。当初は定員13名の予定でしたが、蓋を開けると20名近くのご参加という満員御礼状態。参加者の中には自ら麹作りをおこなっている猛者もいらして、会場内は麹菌が培養できそうなほどの熱気に満ちあふれておりました。

ワークショップでは、マキ屋フーズが取り扱う紅麹あまざけや豆腐ようの試食から、紅麹の歴史、その栄養価、紅麹作りの難しさなどが語られました。マキ屋フーズの前身はなんと、沖縄県民ならみんな知ってる琉球セメント(の子会社)。金城さんは琉球セメントに入社したつもりが、新規事業開発担当として紅麹作りを任命されて今にいたるのだとか。それが戦後初の紅麹菌の培養に成功してしまうのですから凄すぎます。

さて、一同はそんなマキ屋フーズの長年の研究結果から生まれた紅麹菌を使って、看板商品でもある紅麹豆腐よう作りにチャレンジ。同社のこだわりは麹菌のお米から豆腐、泡盛にいたるまで沖縄県産の食材だけで作っているところ。今回も受講生のテーブルには、島どうふに久米仙と沖縄のスーパーでおなじみの商品が並びます。とはいえ島とうふはそのままでは水分が多いため、特別に水分少なめの固い豆腐を作ってもらっているのだそう。

作り方は、サイコロ状にカットした豆腐を泡盛で洗い、紅麹を使った漬け汁にひたして密閉し冷蔵庫で寝かせるだけ。非常に簡単そうですが、じっさい紅麹豆腐よう作りの難所は紅麹作りと豆腐の水抜きですので当然といえば当然の話。今回は2つ容器を用意して「それぞれ冷蔵庫で6ヶ月と1年熟成させて食べ比べてみてください。残った漬け汁もお料理に使えます」と金城さん。参加したみなさんも、豆腐よう作りを通じて沖縄の発酵文化やその奥深さに触れたようでした。

というわけで大盛況のうちに幕を閉じた第8回やんばるの食×文化フェスティバル。まさしく「見て」「聞いて」「味わう」から、さらには「参加する」「作る」ところまで存分に楽しめた1日でした。とりわけゲストと来場者の距離が近く、のんびりとした雰囲気がローカルイベントならではの醍醐味だったようにも感じます。さて、次回の開催は未定ですが、第9回やんばるの食×文化フェスティバルもお楽しみに! あのテーマをやってほしい、こんなゲストを呼んでほしいといったご意見もお待ちしております。

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