フーヌイユのいまとこれから vol.1

フーヌイユとは

沖縄・やんばるにある国頭村宜名真(ぎなま)という集落で、昔からつづく半農半漁の営みのなかに、「フーヌイユ」という存在があります。フーヌイユとはシイラのことで、「フー(富)ヌ(の)イユ(魚)」、つまり富をもたらす魚という意味が込められた、宜名真に伝わる呼び名。群れをなして回遊するフーヌイユに出会い、大漁になったことに対して「フーアイティーサー(富、運があったね〜)」と海からの恵みに感謝して、喜びの言葉を交わします。

昨年の取材がご縁のきっかけとなり、名護博物館、そしてスローフード琉球のメンバーとして、筆者は宜名真のみなさんとともに、“どのように「宜名真のフーヌイユ」を守り伝えるのか”を考え、思いを形にする機会につながりました。地域文化の保存継承の実践をおこなう、まさにその現場に立ち会い、関わらせていただいた時間は、とても大事なことを教わった経験になったと感じています。実際にどんな動きや思いが生まれたのか、この「やんばる食文化フェイスティバル」でご紹介いたします。

この一年間で、「宜名真」というひとつの地域を越えて、共感する仲間がつながりあって文化を支える“広がり”や、「フーヌイユ」というひとつの食文化だけはなく、そのまわりにある生態系や風景との関係性とも向き合う“深まり”が生まれた「宜名真のフーヌイユ」。昨年の記事からのつづきとして、どうぞ読み進めてみてください。

フーヌイユを次世代に伝えるには

2021年5月、宜名真のフーヌイユは未来に残したい味としてスローフードの「味の箱船」に登録されました。この「味の箱船」というのは、地域の自然や人々の生活と深く結びついた食材の存在の証であるとともに、その生産や消費を守り、地域における食の多様性を守ろうという取り組み、あるいはその意思表示です。

味の箱船登録証の贈呈式の様子(宜名真公民館にて)

味の箱船に登録される背景には、たとえば「その産品を生産するために必要な知識や技術が、主に高齢者を中心とした一人またはごく少数の生産者に帰属」していたり、「社会的状況や生態系の状況が、今後数年の間に生産物の量や生産者の数の減少が予測」されていたり、さまざまな要因によって消滅の危機に晒されている状況があります。

宜名真のフーヌイユも、高齢化による担い手の不足や漁獲量の減少など、共通する課題を抱えていました。

では、実際にどのように「宜名真のフーヌイユ」を守り伝えるのか。そこで生まれたアイデアが「絵本」という方法でした。日本スローフード協会が日本財団の助成金を受けて、「海の食文化を伝える絵本づくりプロジェクト」としてフーヌイユの絵本制作がはじまったのは、2021年6月初旬のことでした。

絵本づくりに関わる人たち

宜名真公民館に集まって、絵本づくりについて話し合う様子

フーヌイユの絵本づくりとは、フーヌイユという魚を知らなかったり、食べたことがない子どもたちに向けて、何を伝えたいのか、そしてそのためにはどのように伝えるといいのかを考えながら、宜名真という地域の歴史や自然、人と向き合い直し、生まれた思いを絵本という形にしていくことでした。

今回の絵本制作では、フーヌイユの漁や加工に携わる宜名真のみなさんを中心としながら、宜名真在住の浦崎典子さんがあらすじを担当し、国頭村在住のゆかぼんさんが絵を描いて、宜名真にルーツをもつ書道家の南仙さんが文字の表現を加えるという役割分担で進めました。そして、日本スローフード協会やスローフード琉球のメンバー、名護博物館も加わり、そこには膨大な作業と幾度のコミュニケーションがあったわけなのですが、そのすべてを含めて絵本へと集約していくように、ものがたりが紡がれていきました。

絵本ができるまで〜フーヌイユ漁と加工

フーヌイユ漁は、ミーニシ(新北風)が吹き始め、サシバが渡り始める10月から12月ごろまで行われます。軽石による影響もあり、いつもどおりに漁に出ることができない日々が続きましたが、絵本をつくるにあたって、フーヌイユにまつわる一つひとつの営みを経験、共有させていただきました。

漂流物に集まる習性を利用し、パヤオ(浮漁礁:写真中央)を海に設置して曳縄によって釣りあげる漁法。

漁を終えて漁港に戻ってくる様子。漁港内の作業場では、捌きや塩漬けなどの加工作業の準備がされて、船の帰りを待っています。

フーヌイユの計量を終えた後、うろこを剥がします。

頭とフレの部分を落とします。

次に、三枚におろす工程へ。包丁さばきがかっこいい。この日はフーヌイユの加工技術に関する絵本の取材をしながら、国頭村の若手漁師のみなさんにも参加していただき、フーヌイユづくりについて学ぶ機会としました。

天日干しする際に、竿にかけるため、短冊状に切ります。

保存性を高めるため、全体にたっぷりと塩をすりこみます。

塩漬けした状態で30分ほど寝かせます。

その後、天気を確認しながら天日干しをします。

現在は天日干し後に冷凍保存するため、およそ2〜3日間で完成です。冷蔵庫がなかった時代は、10日以上の日数をかけてカチカチになるまで天日干しをしました。

絵本ができるまで〜伝統的なパヤオの再現

詳しい記録や文献はありませんが、フーヌイユ漁の漁法は宜名真の祖先が南洋から学び持ち帰ってきた漁法と言い伝えられ、今に脈々と受け継がれながら、その方法や漁具などは時代の移りかわりとともに変化している部分もあります。1990年代ごろまで宜名真や近隣の集落で竹を採取し、手作りしてきたパヤオ(フーヌイユウキとも呼ぶ)は、現在は予算や人手不足によりフロートに置き換わっています。フーヌイユについて聞き取りをしているなかで、ウミンチュ(海人)の経験値では「自然素材の竹製パヤオのほうがよく釣れる」という話を聞く一方で、その作り方をちゃんと覚えているのは一人しかいないという状況も同時に知りました。そこで、伝統的なパヤオの作り方を習いながら、記録し、再現することになりました。

フーヌイユの漁や加工に携わる宜名真のみなさんや絵本制作メンバー以外にも、この日も国頭村の若手漁師さんや、博物館職員、料理人など、多くの方々が参加しました。

太くて、長いのある竹を探すことが簡単ではありませんでした。昔は、宜名真の青年会がパヤオ用として、山で竹を管理していたそうです。

ロープの結び方のひとつひとつを教わりました。

「ずっと昔は使っていなかったかもしれないけれど、これがあったほうがいいんだ。竹だけは難しい。」と、竹以外の材料も使いながら、4つの角に浮きを結びつけていきます。

竹の骨組みの上に、葉を重ねます。これに藻が生えて、それを餌にする小魚たちが集まってくるといいます。

葉も竹にくくりつけて、いよいよ完成間近です。

最後に目印となる旗とライトを立てて、完成!

本来は沖合に設置していますが、軽石のため出航できなかったため、漁港内に設置しました。

 

フーヌイユのいまとこれから vol.2 につづく・・・

 

協力/宜名真区・日本スローフード協会・スローフード琉球・国頭漁業協同組合
撮影/仲間勇太・崎山すなお
企画・執筆/山田沙紀(名護博物館)

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