やんばるの〈山の恵み〉[伊部岳 散策編]

亜熱帯の自然に囲まれた島、沖縄本島。
深い山並みが続く北部一帯、「やんばる(山原)」と呼ばれる地域では、ヤンバルクイナ、ノグチゲラなど、国の天然記念物に指定されている動物や様々な貴重な生物・植物に出会えます。また、昔の炭窯や藍壺跡などが、今も昔の姿のまま残っており、森の中は琉球王国時代にタイムスリップしたかのような、やんばるの自然と文化を身近に感じることができます。

やんばるの自然と文化に触れられる森の散策を体験してきました。
場所は国頭村安田、伊部岳。
この森には、日本一大きいオキナワウラジロガシの巨木があります。オキナワウラジロガシはブナ科の常緑高木で、日本一の大きなドングリが生るとか。国立公園に指定されているので採取は禁止されていますが、見つけられるかワクワク!
案内してくださるのは、国頭の辺戸出身、あしむりの郷を主催され、やんばるの森 認定ガイドでもある平良太さん。

山に入る前に、コースの説明をしていただきました。
散策はペースによりますが大体片道1時間半。なので、往復で3時間程度。普段、まったく運動をしないスタッフは少し緊張気味。果たして歩き通せるのでしょうか。

基本的に両手を使うような場所はありませんが、一部傾斜がきつい箇所があるそうです。それと、途中で少し赤土が剥き出しの場所があって、滑りやすいので注意すること。あとは、沖縄ならではの「ハブ」にも注意です。

「伊部岳には、沖縄諸島が大陸から離れた時に取り残された生物たちが、今も独自の生態系を保ちながら暮らしています。ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネ、ケナガネズミ、イシカワガエル…。生き物たちを不必要に驚かせないように進みましょう。」

平良さんのアドバイスをしっかり心得て、いざ出発。
12月のこの時期は雨が多く、特に今年は雨天曇天続きでしたが、取材の日は奇跡的に晴れました。雨後の澄んだ空気と、植物と土のなんとも言えないやさしくて凛とした匂いがする森の中、もうこれだけで気持ちがよいです。

 

10mほど歩いたところで、平良さんがストップ。キムラグモという蜘蛛の巣を発見しました。
一見どこにあるのかさっぱり分かりませんが、細い枝でそっとつついてみると…。

巣穴が出てきました!上手く隠すものです。キムラグモは、巣穴の入り口に糸で蓋を作り、巣穴の上部に扉の様に付け、蓋の外側には土やコケが付き、巣穴と周囲の区別がつきにくくしています。

虫眼鏡で見ているのは、食虫植物のコモウセンゴケ。この毛みたいなものの先に付いた蜜で虫を誘い出します。

これはマングースを捕らえるための罠。マングースはハブの駆除のために沖縄県南部に持ち込まれ、その後爆発的に増殖しながら北上し、現在約3万匹いるそうです。ヤンバルクイナを襲うなど、今も在来の生物たちを脅かしています。

滑りやすい赤土。この土は『クニガミマージ』と呼ばれる痩せた酸性土壌で、農作物にはあまり向きませんが、パイナップルにはとても適しているそうです。

木々の合間を縫って射す陽の光が穏やかです。

山には薪炭や琉球藍づくりの生業が営まれていた名残として、現在も各所に炭窯や藍つぼの跡が残っています。藍つぼと呼ばれる琉球藍を作った跡は、井戸のようでした。
こんな山の中まで人の手が入っているのに驚きました。昔の人はここから港まで運んで船で輸送していたというのだから、大変な労力です。

マンリョウの実。これによく似たセンリョウの実は、かつてゴマの代替として調味料に使われました。

これはシマミサオノキ(沖縄の方言でダシチャ)、アカネ科の非常にしなやかな木です。木質は蜜で固く弾力性が高いので、その弾力性を利用して猪の罠に使われるそうです。琉球の神話では最初に植えられた木と言われる由緒正しい植物。

アオノクマタケランの実。ショウガ科の植物ですが見た目が蘭に似ており、白い花弁に薄っすらと赤みが差した花を咲かせます。残念ながら、この時は花を見ることはできませんでしたが、平良さんが撮影した写真をいただきました。
香りが良いため、やんばるではアオノクマタケランの葉を月桃の代わりにムーチーに使うことがあるそうです。嗅いでみたら、ほのかに優しい香りがしました。
また、こちらも今回は見られませんでしたが、やんばるの森ではヘツカリンドウが咲いています。九州南部から沖縄にかけて分布し、紫と黄緑色が鮮やかな、とても美しい花です。(平良さん撮影)

これが日本最大の『オキナワウラジロガシ』の巨木。
平良さん曰く、南西諸島の固有種であるため、「日本一大きい」ということは、実質世界一の大きさ、とのこと。何本もの木々が合体したみたいな太い幹をしており、立派な木です。妖精が出てきそうな雰囲気が漂っています。
木に触れたくなりますが、木の根の保護のためにロープが張られているので、それ以上は近づかないようにしてくださいね。

ウラジロガシのふもとで、暫し休憩。
平良さんが持ってきてくれた、温かいカラキのお茶と、道の駅ゆいゆい国頭特製のサーターアンダギーをいただきます。カラキは、シナモンの仲間である沖縄ニッケイの呼び名で、やんばるでは昔からお茶にして飲まれています。シナモンの爽やかな風味とほのかな甘みが美味しいお茶です。

なんと、この木のコップ、平良さんがご自身で作られたそうで、とっても薄くて口当たりがソフト。味のある見た目をしています。
森の澄んだ空気と穏やかな木漏れ日の中で食べるおやつは最高でした。

オキナワウラジロガシのドングリが落ちていました。丸っこくて可愛らしい見た目をしています。
なんだか美味しそう…と思ったら、実際に食べられるんですね!ご飯に混ぜ込んで食べるそうです。ただ、灰汁がすごいそうで、イタジイのどんぐりのほうが美味しいとか。
葉っぱと一緒に、ぱちり。なるほど!葉の裏が白いから、「ウラジロ」ガシなんですね。

休憩が終わったら、来た道を戻ります。
帰り道の途中、ヤンバルクイナの鳴き声が森に響き渡ります。なんとも言えない甲高い、キキキキキキーーーという、綺麗な鳴き声。平良さん曰く、この声は「警戒の鳴き声」だそうで、そう言われて聞くと、確かに、離ればなれの2羽が、「人間がいるぞ!」と連絡を取り合っているようにも聞こえてきます。

 

たっぷり3時間の行程でしたが、インドア派のスタッフも無理なく最後まで楽しんで歩けました!

散策終了後は、道の駅 ゆいゆい国頭でランチ。フードコートで好きなものを頼んで、いただきます。運動した後の食事は美味し~い!最後にお買い物タイム。休憩の時にいただいたカラキ茶は残念ながら売れ切れ。。。産直コーナーで、地元で採れた野菜をお土産に買って帰りました。

 

いつも58号線から見るだけだった、やんばるの森。今回、初めてその森の中に飛び込んでみて、そこには想像を遥かに超えた多様な生物たちが息づいていること、そして、自然だけではなく人々の暮らしぶりや文化を伝える跡がたくさん残っていることを知りました。
また、平良さんと一緒に山歩きすることで、一人だと見落としていただろう小さな植物や昆虫たち、鳴き声や糞などから鳥や動物たちの種類の考察、植物の有用性や昔の人の知恵などなど、ここには書ききれない「やんばるの森の豊かさ」を気づかせてくれました。
やんばるの自然の恵みと豊かさを体感できる森の散策、是非、ガイドさんと一度体験してみてはいかがでしょうか。

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今回ご案内いただいたガイド紹介:平良 太さん

7年前、本土から生まれ故郷の国頭に戻ってきた平良さん。離れてみて、地元の良さに気づき、この素晴らしいやんばるの自然を紹介したいと思い、ガイドを始められました。
幼い頃は森が遊び場だったので、その季節毎に、木の実、椎の実、イチゴ、ヤマモモなどを採って遊んだといいます。優しい眼差し・柔らかな口調で、やんばるのさまざまな場所を楽しく丁寧にガイドしてくれます。そして、この豊かな自然を守りつなぐために、厳しい目・迅速な行動力で「やんばるの自然・生活・歴史」の保全活動にも取り組んでいます。

あしむりの郷主催
やんばるの森 認定ガイド

ノルディックウォーキング インストラクター
プロジェクトワイルド エデュケーター
日本特用林産振興会 山菜アドバイザー
国頭地区応急手当普及員

〒905-1421 沖繩県国頭郡国頭村字辺戸14番地1
連絡先:yanbara@kvf.biglobe.ne.jp
電話:090-3012-4280
料金:6,000円~/人
最低催行人数1名、時間はお客様の都合しだい、ガイド内容によって異なりますので、詳しくは平良さんに直接お問い合わせください。

企画・制作/小泉 伸弥
撮影   /座喜味 優
編集   /佐久間 恵美

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